不動産を担保にすれば、「容易に融資を受けられる」と考える人は少なくありません。
しかし、実際の審査では、担保評価だけでなく「借り手の返済能力」や「個人信用情報」が厳しく確認されます。返済リスクが高いと判断されると、いくら不動産を差し入れても否決されることがあるのです。
赤字経営や多重債務、過去の債務整理などの履歴があると、不動産担保を入れても融資は難しいでしょう。
今回は、不動産担保ローンの審査に通らない具体的な原因や、金融機関の審査項目について解説します。審査に落ちる原因を把握し、不動産担保ローンの申込に備えましょう。
不動産を担保にしてもローン審査に通らないことはある?
不動産担保ローンは、不動産を差し出すことで返済不能時のリスクを抑えられる商品です。ただし、担保価値があるからといって、必ず融資を受けられるわけではありません。
金融機関は本業の収益や過去の延滞履歴などを多面的にチェックし、返済が困難と判断すると、迷わず否決にします。
「なぜ担保を差し出しても審査に落ちる場合があるのか?」や、不動産担保ローンの審査基準について詳しく見ていきましょう。
不動産担保があっても100%審査に通るわけではない
担保価値は返済不能リスクに備えるための重要な要素ですが、金融機関は担保価値以上に「本業の収益で返済しきれるか?」を重視します。万が一、返済不能になり不動産が競売にかけられることになれば、かなりの手間が発生し、かつ当初予定した担保価値通りに現金化できるとは限りません。そのため、金融機関は審査で、「担保の売却を前提とせず、月々の収入で返済できるのか?」という点を重視するのです。
また、過去に長期延滞や自己破産があれば、「また同じことを繰り返すのでは?」と警戒します。担保物件に差押えや瑕疵的な問題があると、売却が難航しそうだと見なし、融資を敬遠するでしょう。
したがって、業績が不安定だったり、個人の借入が多く資金繰りに余裕がなかったりする場合は、いくら評価の高い不動産でも審査落ちは避けられません。「担保任せ」に陥らないよう、財務状況や事業計画をよく確認したうえで申込む必要があります。
絶対借りられる不動産担保ローンはないが審査が柔軟で通りやすい不動産担保ローンはある
不動産担保ローンでは担保価値より返済能力が重視される
金融機関は、担保価値はもちろん「返済能力」を重点的にチェックします。独自の担保売却ルートを持っており、比較的審査に柔軟なノンバンクでも、本業の信用情報や業績があまりに悪いと融資を保留するのです。銀行はノンバンクより慎重で、事業計画も細かく審査します。
赤字経営が長引いたり、信用情報に傷があったりすると「返済不能リスクが非常に高い」とみなされるでしょう。また、担保物件の評価額が高くても、先順位抵当権(※)が残っていて既存のローン残高が多いと、回収不能リスクを考えて融資額が大幅に減る場合があります。瑕疵があれば売却できないこともあるため、金融機関は融資を見合わせるでしょう。
※先順位抵当権とは……同じ不動産に複数の抵当権が設定されている場合、売却時に優先して弁済を受けられる権利のこと。
結局のところ、金融機関は「万一の際に物件を競売して回収すれば良い」とは考えず、本業からの返済を最優先で融資の可否を見極めるのです。
不動産担保ローンの審査に落ちる原因
不動産担保ローンの審査に落ちる原因は、主に下記5点です。
- 信用情報の傷に傷がある
- 担保評価額が不足しているや処分しにくい物件
- 業績が低迷、不安定、債務超過になっている
- 他社からの借入が多く、返済計画が不十分
- 資金使途が不明確または相応しくない
これらの原因に該当していると想定されるなら、原因を突き止めて改善するか、ローンの利用を再検討したほうがいいかもしれません。
信用情報の傷に傷がある
JICCやCICなど、個人信用情報機関にネガティブな情報があると、審査通過は難しいでしょう。
具体的には、下記のような情報があると否決される可能性が高くなります。
- 長期延滞がある。また、現在他社ローンやクレジットカードで滞納している
- 自己破産や個人再生など債務整理をした履歴がある
- 保証会社が代位弁済した履歴がある
- 他社借入が多く多重債務が疑われる
過去に延滞や債務整理を経験している人を見ると、金融機関は「この人は延滞や債務整理に対し危機感がない。また同じ状況に陥る可能性が高い」と判断し、融資を否決します。
不動産という担保を出していても、返済が滞って競売で回収するのは負担が大きいため、信用情報に問題があれば仮審査で否決されるケースがほとんどです。また、信用情報は法人だけではなく、代表者個人の情報も厳重に調べられます。事業には関係がない、個人ローンの滞納が響く場合もあるため、注意が必要です。
担保評価額が不足しているや処分しにくい物件
担保に供する不動産が「価値が足りない」「売却が難しい」と判断されると、いくら担保を差し入れても融資は通りません。
市場価値が低い不動産だと、「競売にかけても融資額を全額回収できない」と判断されてしまうのです。
評価額を比較的高く見積もるノンバンクでも、流通性の低い物件は避けたいのが本音です。買い手が現れず処分が長期化するリスクがあるため、可決されてても低い担保評価で少額しか融資されないでしょう。
自身が担保に出そうとしている不動産に不安があるなら、事前に不動産のプロに相談して担保評価の相場を確認しておくのがおすすめです。
業績が低迷、不安定、債務超過になっている
「業績が低迷しており、2期以上赤字が続いている」「債務超過で清算しても負債が返せない」といった状態だと、不動産担保を差し出しても審査通過は難しいでしょう。
金融機関は本業のキャッシュフローを重視するため、「赤字続きなら返済に行き詰まる可能性が高い」と判断します。債務超過の企業は、資金が入っても抜本的に経営改善しなければ焼け石に水で、担保を競売にかけても他の債権者が優先されるリスクが残ります。
特に銀行は、担保があるからといって、将来性が見えない事業者への融資を安易に実行することはありません。金融機関やノンバンクは慈善事業で融資をしているわけではないため、担保があっても信用が低いと否決される可能性は高いでしょう。
他社からの借入が多く、返済計画が不十分な場合
他社借入が多いと、新たに不動産担保ローンを組んでも「返済余力がほとんど残らない」とみなされる恐れがあります。
通常、「既存の借入先からの融資では足らない」となると、現在借りている金融機関で増額融資をしてもらうケースがほとんどです。しかし、増額融資ではなく「他社からの借入を増やす」事態に陥っている場合、金融機関の立場から見ると「既存の金融機関で増額できないのは、すでに経営破綻している可能性が高い」と見なすのです。
借金が積み重なった状態で担保を出しても、返済計画に明確な根拠がなければ「回収しきれない」と判断されるでしょう。
資金使途が不明確または相応しくない
不動産担保ローンの資金使途は、一般的なローンより自由度が高めですが、それでもあまりにも不明確な目的や投機的用途だと、審査通過は難しいでしょう。
金融機関は「返済に結びつかない資金使途」を嫌うため、使い道が不明確だと「本当に返済する気があるのか?」と疑うのです。金利が低い不動産担保ローンほど厳密に用途を確認するため、どうしても必要な費用だと論理的に説明できない場合は、融資をあきらめたほうがいいかもしれません。
不動産担保ローンの審査で見られるポイント
不動産担保ローンを利用する際は、物件の価値だけでなく、事業計画や財務状況など多岐にわたる要素がチェックされます。
不動産担保ローンは、「担保があれば融資を受けやすい」と思われがちです。しかし、実際には事業の見通しが現実的か、資金の使い道に妥当性があるかなど、借り手の返済能力そのものが重視されます。
不動産担保ローンの審査で見られる「具体的な内容」を見ていきましょう。
事業計画・返済計画
金融機関は、融資を受ける事業者が本当に継続的な利益を生み出せるのかを厳しく見ます。具体的には、「過去の業績推移と今後の事業計画に大きな矛盾がないか?」「資金繰り計画が合理的か?」などは厳しく見られるでしょう。
経営者の経験やノウハウも評価対象になる場合があるため、アピールできる実績を準備しておくと審査を有利に進められます。
返済計画については、無理なく完済できるか現実的なラインを見られるでしょう。他社借入があるなら、すでにある借入と合算して返済できるのかもチェックされます。
【保存版】事業計画書の書き方!銀行融資や事業ローンを受けやすくするためのコツ
資金使途
資金使途はもちろん、使い道と事業との関連性も審査では見られます。さらに、融資を通じて事業を拡大させ、増えた利益で返済できるかどうかもチェックされるでしょう。
資金使途が、「事業に直接関係するものか?」「事業計画と融資額が矛盾していないか?」についても、厳しく審査されます。不動産担保ローンは資金使途を自由に設定できるケースもありますが、基本的に事業性を認めてもらえなければ審査は進みません。
もし投資目的や個人的な消費資金など、事業と無関係な用途とみなされると、否決される可能性が高いでしょう。借入金を使い、どんな成果を出すのかを数字で示すことが重要です。
財務内容
財務状態が安定しているかどうかも、重要な審査ポイントです。決算書を見れば債務超過や不良資産の有無がわかりますが、連続で赤字を出しているような事業者への融資は難しいかもしれません。
また、新たな融資を受けた結果、返済負担が大きくなりすぎてキャッシュフローが逼迫しないかも見られます。決算期ごとの財務推移をまとめ、純利益やフリーキャッシュフローがどの程度確保できるのかを説明すると審査通過の可能性も上がるでしょう。
瑕疵がある不動産
担保として差し入れる不動産に、法的・物理的・環境的な問題があるかどうかも厳しく見られるポイントです。例えば、隣地との境界が不明確な土地や、建築基準法に違反する増改築を行った物件などは融資対象にならない場合があります。
また、構造上の欠陥が確認されたり老朽化が進んでいたりすると、査定額が大幅に落ち、融資額も減額されるでしょう。土壌汚染やシロアリ被害などの影響が大きければ、物件そのものに価値がないと判断されかねません。
また、災害リスクが高いエリアにある物件や、工場・ゴミ処理場の悪臭リスクがある場合も警戒されます。瑕疵がある不動産の例は、下記の国土交通省が制作したデータベースを参照してみると、過去の裁判事例なども確認できます。
参考:不動産トラブル事例データベース(制作/国土交通省、運営/不動産適性取引推進機構)
不動産担保ローンの融資では、万が一返済が滞った際に物件を売却する前提で審査が進められるため、瑕疵があれば担保評価が著しく低くなるのです。可能な限り事前に問題を解消するか、別の物件を用意するなどの対策が必要です。
ノンバンクと銀行の不動産担保ローンはどちらが審査に通りやすい?
不動産担保ローンは、銀行だけでなくノンバンクや信用金庫なども提供しています。
一般的には、ノンバンクは担保評価を優先する傾向があり、銀行は事業計画を重視します。しかし、担保価値が著しく低い場合や信用情報が悪いケースでは、ノンバンクでも審査に落ちるかもしれません。
それぞれ、どれくらいの確率で審査に落ちるのか、具体的に見ていきましょう。
ノンバンクの不動産担保ローンの審査に落ちる確率
ノンバンクは「担保力」を重視する傾向が強く、赤字や債務超過の企業でも物件価値が充分なら審査通過できる確率は高いでしょう。
ただし、物件に重大な瑕疵があったり先順位抵当のローン残高が大きすぎたりすると、担保を売却しても債権を回収できないリスクが高いため、融資を否決するケースがあります。
ノンバンクは銀行より金利を高めに設定しているため、ある程度リスクがある事業者へも融資を行いますが、リスク許容度は利用者によって違います。返済能力に乏しい事業者は、担保があっても否決される可能性は高いでしょう。
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銀行の不動産担保ローン審査に落ちる確率
銀行には、「担保はあくまでも補完材料。審査では本業の返済力を優先する」という考え方があります。特にメガバンクなどの大手銀行は、赤字や債務超過がわかった時点で否決するため、ノンバンクと比較すると審査通過率は低いでしょう。
ただ、地方銀行は地元の企業を応援する側面があるため、多少の経営難であれば比較的相談に乗ってくれる可能性があります。ただし、地方銀行でも営業エリア外や流動性の低い物件の場合、審査通過は難しいかもしれません。
事業計画に根拠があり、かつ返済計画を明確に提示できなければ、担保だけの力で審査を乗り切るのは難しいでしょう。
ろうきんの不動産担保ローン審査難易度
ろうきんは労働者の生活支援を主目的としているため、事業性融資には消極的です。担保の有無以前に「本当に労働者の生活を守るための借入か?」という観点で審査されるため、担保があっても事業主への融資は難しいでしょう。
また、投機や事業拡大を目的とするローンには難色を示すことが少なくありません。融資商品自体が個人向けローン中心で、事業目的の融資には対応していないところがほとんどです。担保を用意していても、用途が事業だとわかると断られる可能性が高いでしょう。
信用金庫の不動産担保ローン審査難易度
信用金庫には地域経済を活性化する使命があるため、地元の物件には柔軟な評価をする一面があります。取引実績がある企業なら相談しやすいですし、融通を利かせてくれる可能性もゼロではありません。
ただし、エリア外の物件や瑕疵物件などは厳しく見られ、返済計画が曖昧だと銀行同様に断られるでしょう。信用金庫も、返済不能になった時の担保処理は避けたいため、事業の安定性を判断したうえで「返済能力が高い」と判断すると、融資を可決します。
担保だけに頼らず、地元で積み重ねた信用も上手く活用すると、審査ではプラス材料になるかもしれません。
不動産担保ローンの審査落ち後にできる審査通過率アップのコツ
審査に落ちても、諦める必要はありません。審査に落ちた原因を見極めて対策をすれば、不動産担保ローンで融資を受けることは可能です。
審査に落ちた時の対策についても、いくつかの方法を見ていきましょう。
他社借入を減らして返済能力を上げる
「返済能力が乏しい」と判断されたのであれば、他社借入が影響しているかもしれません。このような場合は、次のような手段を検討してみましょう。
- 他社借入を一部返済する。
- 借金を一本化して返済負担を軽くしたうえで、返済を進める
- リースバックやファクタリングなどを活用し、一部借入を繰り上げ返済する
多重債務状態で不動産担保ローンに申込んでも、「そもそもキャッシュフローが限界に近い」と見なされ、審査通過は難しいでしょう。他社借入があるなら可能な限り一本化し、毎月の返済総額を下げると、銀行やノンバンクにも「返済能力が回復しつつある」とアピールできます。
ただし、リースやファクタリングを使うと手数料が発生します。使い過ぎると、さらに経営を圧迫することになるため、計画的な利用を心がけましょう。
担保不動産を見直す
担保価値が低いために審査に落ちたと想定されるなら、評価が高い物件がないか検討してみましょう。物件に瑕疵があるなら、不動産の専門家に相談して瑕疵を解消できないか検討する方法もあります。
具体的には、金融機関がどこに懸念を抱いたのかを推測し、瑕疵がある部分を改善すると評価額が上がるかもしれません。
また、不動産担保ローンで利用する担保は、自身のものだけが対象になるわけではありません。同意は必要ですが、家族や親族の不動産も担保設定できるため、評価価値が高い不動産がないか調べてみましょう。
金融機関を変える
地方銀行や信用金庫など、地元の金融機関へ相談する方法もあります。地域を応援する目的で設立された金融機関であれば、柔軟な評価をしてくれることもあり、審査通過の可能性は上がるかもしれません。
地域密着型のノンバンクは、地元の不動産流通ネットワークを持っているため、高査定をしてくれる場合があります。
審査なしで絶対借りられる不動産担保ローンはない!
「審査なし」「誰でも借りられる」といった謳い文句は魅力的に見えます。
しかし、正規の金融機関が審査を省略することは絶対にありません。こうした広告を出している業者は、違法な営業を行っている可能性が非常に高いため、利用すると大きなトラブルを招くリスクがあります。
審査なしや絶対借りられる不動産担保ローンは違法
貸金業法では「借入れが容易であることを過度に強調する行為」を禁じているため、「審査なし」「絶対に借りられる」などと宣伝する業者は、まず違法業者と思って間違いありません。
貸金業法第16条「誇大広告の禁止等」
貸金業者は、その貸金業の業務に関して広告又は勧誘をするときは、次に掲げる表示又は説明をしてはならない。
e-GOV法令検索「貸金業法第16条「誇大広告の禁止等」」
三 借入れが容易であることを過度に強調することにより、資金需要者等の借入意欲をそそるような表示又は説明
しかも、そのような業者は「返済できない」となると暴力的な取り立てを行う場合が多く、家族や職場への嫌がらせもしてきます。法外な金利や不当条項があれば契約無効とみなされる可能性はありますが、それでも相手が強硬手段に出れば対応に苦慮するでしょう。
正規の業者か疑わしい場合は、貸金業登録番号が正しく記載された正規業者かどうか必ず確認し、怪しい宣伝には手を出さないことが鉄則です。
やばい不動産担保ローンを見分ける方法
不動産担保ローンを利用する際は、「業者そのものがやばいかどうか?」を見極めるのが重要です。契約書類や広告に登録番号が記載されていなかったり、他社と比較して金利や手数料が高すぎたりする業者は違法業者の可能性が高いでしょう。
また、説明を省略して即決を迫るやり方も警戒しなければいけません。何とか資金を得たい気持ちはわかりますが、違法業者を利用すると自宅や担保物件を奪われるばかりか、日常生活すら脅かされてしまいます。
不動産担保ローンを利用する際は、安心安全な大手ノンバンクか、銀行や信用金庫など正規の金融機関を選びましょう。正しく登録された業者かを確認するには、金融庁の登録貸金業者情報検索サービスなどを利用するのもおすすめです。
不動産担保ローンの審査に通らないときの対策まとめ
不動産担保ローンに落ちた際は、どこに問題があったのかを冷静に突き止めて、なんらかの対策を講じる必要があります。むやみに他社ローンに申込み続けると、かえって審査落ちが続き、信用情報に傷をつけることになりかねません。
投資資金や個人的な用途に使うなど、資金使途が不明確だと否決される場合も多いため、根拠がある事業計画を提出し、事業に使う資金であることを説明しましょう。