ビジネスローンに総量規制は適用される?個人事業主は年収の3分の1までしか借りられない?

ビジネスローンで事業資金を借りる際に気になるのが、「総量規制のルール」ではないでしょうか。特に個人事業主の場合、「年収の3分の1までしか借りられないの?」と不安に思う人も多いでしょう。

総量規制は、個人の借入を制限するルールですが、ビジネスローンは総量規制の対象外となる場合があります。

今回は、総量規制の仕組みや対象となる貸付、個人事業主や法人がどのように影響を受けるのかについて解説したいと思います。

目次

総量規制の仕組みや対象になる貸付

総量規制とは、「個人の借入が年収の3分の1を超えないよう制限するルール」のことです。しかし、すべてのローンに適用されるわけではなく、対象となる貸付とそうでないものが存在します。

総量規制とは?

総量規制は、過剰な借入れによる返済不能や、多重債務を防ぐために導入されました。かつて、消費者金融を中心に借入れを繰り返すことで債務超過に陥るケースが社会問題となり、2010年の改正貸金業法により総量規制が正式に施行された経緯があります。

対象となるのは、消費者金融やクレジットカードのキャッシングなど、貸金業法の適用を受ける業者からの借入れで、銀行や信用金庫・信用組合の融資は対象外です。

ただし、貸金業法の対象となる業者すべてで総量規制が適用されるわけではありません。

個人事業主向けのビジネスローンや、利用者にとって一方的に有利な借り換えなどは「例外貸付」として扱われます。また、法人名義での借入は個人向けの融資とは異なるため、総量規制の影響を受けません。

参考:日本貸金業協会公式サイト「お借入れは年収の3分の1までです」

総量規制が対象になる貸付

総量規制の対象となるのは、貸金業法の適用を受ける「貸金業者からの個人向け借入のみ」です。

【総量規制の対象、対象外の貸付】

対象・消費者金融カードローンやキャッシング
・ノンバンクでの個人融資
・クレジットカードのキャッシング
対象外・銀行、信用金庫、信用組合の融資
・信販会社のショッピングクレジット
・住宅ローン、マイカーローン(※厳密には除外貸付に該当)

出典:日本貸金業協会公式サイト

銀行や信用金庫・信用組合などは、貸金業法ではなく銀行法や信用金庫法などの別の法律のもとで運営されているため、総量規制の対象外です。また、信販会社によるショッピングクレジット(割賦販売)も、割賦販売法に基づいて運営されているため、総量規制の影響を受けません。

貸金業者からの借入でも「例外貸付」「除外貸付」になる場合がある

総量規制は、個人の借入を年収の3分の1までに制限するルールですが、すべての貸付がこの規制の対象になるわけではありません。特定の条件を満たす場合は、「例外貸付」や「除外貸付」として、年収の3分の1を超えた借入ができたり、そもそも総量規制の計算に含まれないケースがあります。

総量規制の「例外貸付・除外貸付」の意味

総量規制には、「例外貸付」または「除外貸付」という仕組みがあり、それぞれ返済能力に問題がなければ、年収の3分の1を超えた借入も可能です。

【総量規制の例外貸付、除外貸付の定義や適用されるケース】

定義年収の3分の1を超えた借入適用されるケース
例外貸付・「顧客の利益の保護」に支障がないと認められる貸付のこと
・総量規制の計算上は借入残高に含まれるが、一定の条件を満たせば年収の3分の1を超えた借入も可能
条件を満たせば可能・顧客にとって有利な条件での借換え(利息負担が減るなど)
・借入残高を段階的に減少させるための借換え
・医療費の支払いのための緊急融資
・配偶者と合算して年収の3分の1以下となる借入(配偶者の同意が必要)
・個人事業主が事業資金として借入れる場合
・事業開始時の資金調達
・つなぎ資金(1か月以内に返済予定の短期融資)
除外貸付・総量規制の対象とならない貸付のこと。
・総量規制の計算対象から外され、年収の3分の1を超えて自由に借入が可能
可能。しかし返済能力を超えた融資は行われない・住宅ローン
・自動車ローン(自動車を担保とする場合)
・高額医療費のための貸付
・有価証券を担保とする貸付
・事業用不動産を担保とする貸付(自宅を除く)
・売却予定の不動産に関連する貸付

出典:日本貸金業協会:総量規制の例外や対象外

例外貸付や除外貸付の注意点

例外貸付は、総量規制の基準である「年収の3分の1」を超えた借入はできるものの、借入残高として計算される点に注意が必要です。例外貸付で年収の3分の1以上を超えてしまうと、消費者金融カードローンやクレジットカードのキャッシングでの新規融資は受けられません。

除外貸付は総量規制の対象外となりますが、特に不動産担保ローンを利用する際は注意が必要です。

不動産担保ローンで万が一返済できなくなると、担保にした不動産を失うことになります。また、自宅を担保に事業資金を借りる場合は、総量規制の対象になるため注意しましょう。

例外貸付・除外貸付両方に言えることですが、無理のない範囲で借りるのがローン契約の鉄則です。例外貸付や除外貸付は金融機関にとってリスクの高い融資のため、通常よりも厳しい審査が行われるのが一般的で、金利が高めに設定されるケースもあります。

総量規制の適用外だからといって、安易に借入を重ねると返済負担が大きくなり、事業や生活に支障をきたす可能性があります。利用時は返済計画をしっかり立てて、無理のない額を借りましょう。

法人がビジネスローンを借り入れる場合は総量規制の対象外

法人がビジネスローンを利用する場合は、総量規制の対象外となります。これは、総量規制が個人向けの借入を制限するルールであり、法人向け事業資金の借入には適用されないためです。

法人名義での借入では「年収の3分の1」といった概念はなく、事業計画や財務状況に基づいた融資が受けられます。

法人名義でのビジネスローンが総量規制の対象外になる理由

法人名義のビジネスローンが総量規制の対象外になるのは、総量規制が「個人の過剰な借入れによる多重債務を防ぐことを目的とした制度である」という点が理由です。

個人向け融資と、事業資金を目的とする法人向け融資とは性質が異なります。銀行やノンバンクなどの金融機関にかかわらず、法人が借入を行う際に総量規制の制限を受けることはありません。

ちなみに、総量規制を定めた貸金業法では、13条の2に「過剰貸付け等の禁止」が記載されていますが、この条文はすべて「個人」を対象としており、法人を対象とした規定はありません。

参考:法令検索e-GOV貸金業法

法人がビジネスローンで借りる時の注意点

法人向けのビジネスローンは総量規制の対象外ですが、だからといって無計画に借入を行うと、返済負担が大きくなり経営に悪影響を及ぼす可能性があります。

まず、借入目的(資金使途)と返済予定期間は明確にしておきましょう。

運転資金と設備資金では、必要な金額や返済期間が異なります。運転資金は短期(1年以内)での返済が一般的で、設備資金は3~5年程度で返済するのが目安です。両者を区別せずに借入をすると、経営そのものを脅かすことにもなりかねません。

必要な金額を明確にしておくことも重要です。「とりあえず多めに借りておこう」という考え方ではなく、「何にいくら必要なのか」を具体的に計算し、必要額だけを申込みましょう。過剰な借入をすると、利息負担が増え、資金繰りを圧迫するリスクが高まります。

また、事業が安定しないうちに高額の融資を受けると、売上が予想よりも伸びなかった場合に返済が滞るリスクがあります。法人向けのビジネスローンは総量規制の適用を受けませんが、だからこそ慎重に計画を立てる必要があります。

法人の信用情報と代表者の信用情報どちらが重視される?

法人向けビジネスローンの審査では、法人の信用情報だけでなく、代表者個人の信用情報も重視されます。特に中小企業や設立間もない法人の場合、法人と代表者は一体とみなされることが多く、代表者個人の信用情報も審査結果に大きく影響するでしょう。

法人の審査では、過去の業績推移や事業計画・返済計画をもとに審査が行われます。黒字経営で財務状況が安定していれば、法人としての信用力は高く評価されるでしょう。ただし、たとえ法人の業績が良かったとしても、代表者個人の信用情報に問題があると審査に通らないことがあります。代表者が過去に債務整理をしたり他社で滞納したりした履歴があると、融資が否決となるケースがほとんどです。

ちなみに、過去6ヵ月以内に融資を申込んで審査に落ちている場合、再申込は避けましょう。信用情報機関には他社照会履歴が6ヵ月間残るため、7ヵ月目以降に再申込したほうが審査に通りやすくなります。

個人事業主がノンバンクで借りるビジネスローンは総量規制の例外貸付

個人事業主がノンバンクで借りるビジネスローンは、総量規制の「例外貸付」として扱われます。

総量規制は、個人の借入を年収の3分の1までに制限するルールです。しかし、事業資金として借りる場合は、事業の収益性や返済能力が考慮されるため総量規制の影響は受けません。

個人事業主へのノンバンクのビジネスローン融資が例外貸付になる理由

個人事業主向けノンバンクビジネスローンが、総量規制の「例外貸付」として扱われるのは、事業融資が「個人向け融資と異なる性質を持つため」です。個人事業主の借入は事業の運営に不可欠であり、収益性や返済計画に基づいて審査されるため、特別な扱いを受けます。

貸金業法施行規則第10条の2-3では、事業を営む個人への貸付において、下記2つの条件を満たせば総量規制の例外とすることが定められています。

  1. 事業の実態が確認されていること
  2. 事業計画、収支計画、資金計画に基づき、返済能力を超えない貸付であること

参考:貸金業法 e-GOV 貸金業法施行規則第10条の23「過剰貸付け等の禁止個人顧客の利益の保護に支障を生ずることがない契約等」の四

個人事業主がビジネスローンを利用する際には、単に「年収の3分の1以内かどうか?」ではなく、事業の状況を踏まえた審査が行われます。ただし、個人事業主向けのビジネスローンでは、一般的に法人よりも厳しい審査基準が適用されるでしょう。そのため、借入限度額は法人よりも低く、返済期間も短めに設定されるのが一般的です。

個人事業主がネット銀行で借りるビジネスローンは総量規制の対象外

個人事業主がネット銀行のビジネスローンを利用する場合は、総量規制の対象外となります。これは、ネット銀行が貸金業法ではなく銀行法の規制を受ける金融機関であり、貸金業者とは異なる扱いを受けるためです。

ネット銀行の融資が総量規制の対象外になる理由

ネット銀行のビジネスローンが総量規制の対象外になるのは、ネット銀行が消費者金融やノンバンクとは異なる規制のもとで運営されているためです。

金融庁の監督指針では、ネット銀行は「インターネット上でのみサービスを提供する銀行」と位置づけられ、通常の銀行と同様に銀行法の適用を受けることが明記されています。そのため、ネット銀行のビジネスローンは、貸金業法で定められた総量規制の影響を受けません。

参考:金融庁「銀行業の参入審査基準」

ただし、「総量規制の対象外」といっても無制限に借りられるわけではありません。審査では事業計画、収支計画、資金計画をもとに返済能力が厳しく評価されるため、ノンバンクよりも融資の基準は厳しくなります。運転資金であれば、月商の2~3ヵ月分程度、設備資金であれば設備費の80~90%程度または年間返済可能額の10倍までが目安です。

個人事業主がネット銀行のビジネスローンで借りる時の注意点

ネット銀行はノンバンクに比べて審査が厳しく、事業計画や資金使途のチェックが細かく行われるため、しっかりとした準備が必要です。事業の成長や安定運営に必要な最小限度の額を借りることで、無駄な金利負担を抑え、資金繰りの悪化も防げます。

さらに、ネット銀行はノンバンクよりも審査に時間がかかる点にも注意が必要です。ネット銀行はリスク管理を徹底しており、審査では資金使途や事業計画のチェックが細かく行われます。そのため、急な資金需要には向いておらず、時間に余裕を持って申し込むことが大切です。

個人事業主がネット銀行のビジネスローン審査通過率を上げるコツ

ネット銀行のビジネスローンは、ノンバンクよりも厳しい審査が行われます。特に、銀行口座の入出金履歴が審査に大きく影響するため、事前にしっかりと対策を講じることが重要です。

まず、事業用の入出金はビジネスローンを提供しているネット銀行に集中させておきましょう。ネット銀行は、入出金履歴をもとに審査を行うため、利用履歴が長く安定した取引が証明できれば、審査にも通りやすくなります。逆に、複数の銀行口座を利用し、資金を頻繁に移動させていると資金の流れが不透明になり、「事業の実態が見えない」と判断される可能性があるのです。

次に、事業用口座と個人口座は明確に分けておきましょう。事業費と生活費が混在していると、「事業の資金管理が不透明」と判断され、審査に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、事業用の銀行口座を用意し、売上入金や経費支払いを管理しておくことがポイントです。

不必要な資金移動や不審な入出金を避けることも重要です。他行への頻繁な資金振替があると、「資金使途を隠しているのではないか」と疑われ、審査が厳しくなることがあります。特に、大きな金額の出入りがある場合は、取引目的を答えられるようににしておきましょう。

個人事業主のビジネスローンでも自宅を担保にした場合は総量規制が適用される

個人事業主がビジネスローンで事業費を借りた場合は、総量規制の対象外です。なぜ、自宅を担保に入れると総量規制の対象になるのか、詳しく見ていきましょう。

自宅を担保にしたビジネスローンが総量規制の対象になる理由

総量規制は、個人が過剰な借入によって生活に支障をきたさないように設けられた制度です。そのため、事業目的の借入であっても、「生活に不可欠な自宅」が担保に含まれる場合は、一般の個人向けローンと同様に規制の対象となります。

貸金業法施行規則第10条の21では、「個人過剰貸付契約から除かれる契約」の中に、不動産を担保とする貸付は総量規制の対象外であると規定されています。ただし、以下の条件に該当する場合は総量規制の対象となることが明記されています。

  • 担保が個人の居住用不動産(自宅)である場合
  • 担保となる不動産が生計維持に不可欠であると判断される場合

「不動産担保ローン=総量規制の対象外」と単純に考えるのではなく、担保とする不動産の種類によって扱いが異なる点に注意が必要です。

参考:貸金業法施行規則第10条の21

事業資金の調達において、自宅を担保にすることは大きなリスクを伴います。総量規制の適用有無にかかわらず、返済不能に陥った場合は住まいを失う可能性があるため、慎重に判断しましょう。

総量規制の例外・対象外でもビジネスローンで無制限に借りられるわけではない

総量規制の例外や対象外となるビジネスローンであっても、無制限に借りられるわけではありません。例外貸付や除外貸付の制度があるとはいえ、金融機関は審査の際に返済能力や事業の健全性を厳しくチェックします。借り過ぎてしまうと返済負担が増え、資金繰りが悪化するかもしれません。

ノンバンクのビジネスローンは審査に柔軟でも「甘いわけではない」

ノンバンクのビジネスローンは、銀行融資に比べると審査基準が柔軟ですが、決して甘いわけではありません。貸金業法では、返済能力を無視した安易な融資を禁じています。

また、ノンバンクはCICやJICCなどの信用情報機関を利用し、申込者の信用情報(他社借入状況・返済履歴など)を確認する義務があります。過去に延滞や債務整理の履歴がある場合は、審査通過は難しいでしょう。

参考:貸金業法第13条の1「貸金業者は、貸付契約を締結する際に、顧客の収入・資力・信用・借入状況・返済計画などを調査しなければならない」

ノンバンクのビジネスローンで年収の3分の1以上を超えて借りるリスク

ノンバンクのビジネスローンでは、年収の3分の1を超えた借入が可能です。しかし、必要以上に借りてしまうと、利息の支払さえもできなくなり、自転車操業に陥るリスクがあります。

返済が滞ると保証人への代弁請求や担保物件の処分が発生し、最悪の場合は自己破産に至るケースもあるでしょう。延滞や自己破産の情報は信用情報機関に5年または7年残るため、今後の事業資金の調達や金融機関との取引に大きな影響を与えることになります。

事業融資では銀行や公的融資との組み合わせがポイント

ビジネスローンは金利が高めに設定されていることが多く、これだけに頼るのはリスクがあります。事業資金を安定的に確保するためには、銀行融資や公的融資と組み合わせると良いでしょう。

ノンバンクのビジネスローンとセットで考えたい融資制度
  • 銀行や信用金庫の信用保証協会付き融資:信用保証協会付き融資は、保証協会が保証してくれるため審査に通りやすい
  • 日本政策金融公庫の融資:低金利かつ長期返済が可能な公的融資。創業融資や事業拡大向けのプランが充実している。参考:日本政策金融公庫
  • 地方自治体の制度融資:自治体が提供する低利融資制度で、信用保証協会と連携するものが多い。参考:東京都の制度融資
  • ファクタリング:売掛金を早期に現金化する資金調達方法。借入ではないため信用情報に影響を与えない
  • リースやリースバック:設備を導入する際はリース契約を利用することで、資金繰りを改善できる。また既存の設備をリースバックすることで、所有資産を活用した資金調達も可能

ビジネスローンは総量規制対象外だが計画的な利用を心がけよう

ビジネスローンの利用にあたっては、総量規制が適用されるか否かに関わらず、計画的な利用を心がけましょう。また、事業資金を調達する際はビジネスローンだけに頼るのではなく、公的融資や銀行融資・補助金などと組み合わせたほうが負担が減る場合があります。

いずれにせよ、身の丈を超えた借入は控え、自社の事業計画に合った借入方法を選ぶと良いでしょう。